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空想作家と専属イラストレーター&猫7匹の                 愛妻家の食卓

空想作家と専属イラストレーター&猫7匹の     愛妻家の食卓

エントツ


私が幼稚園に通っているころの話です。

家から幼稚園に行く道の途中にとても高いエントツが2つある工場がありました。

そこにいつも私にあいさつをしてくれる工場のおじさんがいました。とっても大きくて優しいおじさんでした・・・


「おじちゃん!あのエントツからモクモクと出てるものはなーに?」

〈あれかい?あれはね雲だよ〉

「くも?」

〈そう、ここは雲を作っている工場なのさ〉

「ふ~ん・・・こっちのエントツからは白い雲が出て、あっちのエントツからは黒い雲が出てるね」

〈あっちの黒い雲は雨曇っていう雨を降らす雲なんだよ〉

「ふ~ん・・・でも、どうして雲なんて作っているの?」

〈それは、雲が必要なものだからさ。白い雲は影を作ってみんなを暑い日差しから守ってくれるし、黒い雲はみんなが必要な雨を降らすからね〉

「ふ~ん・・・」

みーちゃんはおじさんの話が大好きでした。

そんなある日のこと、明日はみーちゃんの初めての遠足でした。みーちゃんは明日の天気が心配で仕方ありません。

「明日の天気だいじょうぶかなぁ・・・そうだ!おじちゃんに雲をとめてもらえばいいんだ!」

みーちゃんはあのエントツから出ている雨を降らす雲をとめれば明日はかならず晴れると思いました。みーちゃんはさっそくおじちゃんに頼みに行きました。

〈こんにちは、みーちゃん〉

「・・・」

〈どうしたんだい?〉

「あの・・・明日遠足なの、だから雨が降ったらこまるの、あの雲を作るのをやめてください!」

おじちゃんはこまった顔でエントツを見上げました。

〈う~ん・・・〉

「雨が降ったら遠足がなくなっちゃうの・・・」

みーちゃんは少し泣きそうになりながら言いました。すると、

〈仕方ない、今日だけだよ。あっちのエントツだけでいいね〉

とニッコリ笑ってくれました。

「うん、ありがとう」

〈ちょっと待ってておくれ〉

そう言うとおじちゃんは工場の中に入っていきました。そして、しばらくするとエントツの黒い雲はぴたりととまりました。

「やったー!」

みーちゃんはとんで喜びました。そして、工場から出てきたおじちゃんにお礼をいいました。

「ありがとう、おじちゃん!」

〈これで明日は必ず晴れるよ、いっぱい楽しんでおいで〉

「うん!」

そうして、みーちゃんの初めての遠足は晴れました。その遠足の帰り、みーちゃんはまた工場によりました。

〈みーちゃん、今日は本当に良い天気だったね。よかったね〉

「うん!それでね、おみやげがあるの」

〈おみやげ?〉

「うん、手をだして」

〈・・・〉

みーちゃんがおじちゃんの手に置いたのはどんぐりの実でした。

〈ありがとう、みーちゃん。さっそく工場の庭に植えることにするよ〉

「うん、もう雨を降らしてもいいからね」

〈そうだね、木も花ものどがかわいているだろうからね〉

「うん。じゃあまたね、おじちゃん」

〈あぁ、また明日ね・・・〉

                     
それからおじさんは私が遠足の度にエントツの煙を止めてくれました。

でも、小学校に上がる時、私は引越して、それからずっと会えずにいました。

私は大人になりました。

そして、今年、仕事に近くまで行くことになり寄ってみました。
工場は古くなっていたけどまだそのままで、2つの高いエントツからはあの時と同じように白と黒の煙がモクモクと上がっていました。

そして、庭には大きなくすの木が沢山・・・私はたまらず、工場を訪ねてみました。

すると、おじさんはもう工場には居なく、悲しいことに3年前に亡くなってしまっていました・・・

でも、工場では私とおじさんの話をみんなが知っていて命日にはエントツの煙を止めているといいました。私は工場の人におじさんが眠っているお墓を教えてもらい、向かいました。そして、お墓の前で手を合わせました・・・

「ありがとう・・・おじさん・・・」


おわり。


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